アメリカのポルノ産業と宗教

社会考察

アメリカの性産業は必ずしも自由ではありません。「女性は無理やりやらされている」という考えが根強くあります。CBSの60ミニッツというドキュメントでは、年配のかなり肥えたおばさんたちが、そう主張して、制作会社に抗議活動をしている番組がありました。もちろん決めつけです。ポルノ映像をみて、女性は無理やりやらされていると。

そのため、アメリカのポルノ映像では、女性が進んで行為に及ぶ、はっきりとしたOKサインを出す必要があります。行為中の「YES~」という喘ぎ声的なものは、そのためのものです。レイプもの、同意なしのもの、なんて絶対に作ることができません。連想を想起するだけでも暴力表現となり取締の対象となります。

ポルノ業界に対しては、キリスト教右派、福音派が圧力をかけてきます。

プロテスタントが約50%、カトリックが約25%、その他の宗教が約5%、無宗教が約20%となっています。75%がキリスト教徒。この内のプロテスタントは、主流派と呼ばれる米国聖公会、メソジスト、ルター派など、20%を占める。一方、福音派には、バプティスト、ペンテコステ、長老派などがあり、35%を占める。主流派=多数派ではなくなっている。非主流である福音派の人口はここ十数年来、増加している。

キリスト教右派は、中絶反対が一丁目一番地の政策目標ですが、ポルノ産業の衰退・根絶も目指しており、絶えず圧力をかけ続けています。強力なロビー活動団体ですから、細かい規制を受け入れて、交わすほかありません。

米国は州によって違います。法律が違うということなんですが、それは住民を人を表します。西海岸は寛容ですが、それ以外は性産業に関しては、ほぼ不寛容です。

米国のポルノビデオは、カリフォルニア州ロサンゼルス界隈で制作されていました。それ以外は相当なリスクを伴います。ロサンゼルスはリベラルな土地柄で、移民やキリスト教カトリックが多い地域となります。キリスト教右派が多く、圧力の尖兵となる共和党議員がいないところ、という感じです。

しかし、1980年代に入って変化します。1980年代以降、HIV感染への認識が高まるとともにポルノ撮影(特にゲイポルノ)現場でコンドームが使用されることが増えます。

しかし、基本的に使用するかどうかは製作者に任されており、男女間によるポルノではあまり使用されませんでした。その後、エイズ・ヘルスケア財団(AHF)の働きかけにより、2012年にはカリフォルニア州ロサンゼルス郡(Los Angeles County)でのポルノ撮影ではコンドームを使用することを義務付ける条例が成立します。

結果、ロサンゼルスで撮影されるポルノが、その後4年間で95%も減少し、代替え地として、ラスベガスやアリゾナで撮影されることが多くなりました。2016年に住民投票により撤回されますが、ロサンゼルスに集中していた撮影環境は分散することになりました。

ただこれも変わりつつあります。デジタル化とネット配信という時代になると、流通の問題は考える必要がなくなります。撮影する場所もどこでも良くなります。米国のポルノユーザーもプロの女優でしっかり作られたものから、簡単に手早く、安い製作費で撮影されるのが主流です。素人が参入しやすい環境になっているようです。スマホのカメラでもプロ並みの動画が作ることが可能ですから、素人映像が溢れ、人気を得ています。

あまり締め付けると国境を超えるものが現れます。規制をするためには、手の内に置く必要があります。巨大な市場ですから米国のプラットフォームに合わせて、諸外国は製作をします。日本と中国は別ですが。経済や市場の支配的な基準ではなく、キリスト教右派の宗教倫理観が優先と考えているので、たちの悪いとこです。表現の自由と意味で。

ビデオやDVDをレンタルしたり、オンデマンド放送で視聴する人はいなくなり、スマホでポルノを視聴するのがスタンダードのようです。<Pornhub>によると、2010年と比較し、2016年はスマホ視聴率が1,424%も増加しています。

素人が参入している業界にはつきものですが、プロとして働いている演者の経済的環境も悪化しています。以前は、2次使用のギャラも契約に盛り込んでいましたが、報酬はその時の演技料のみ。

素人の参入とネット配信による無断使用、海賊版の影響があります。業界全体の制作費が圧迫されます。テレビとユーチューブの関係性に似ています。動画市場は拡大しているのに参入者が増え、違法配信が続き、テレビの制作費は削られています。

ポルノ作品のギャラも20年前に比べて半分程度と言われます。ただトップの女優三たちは、別のやり方で収入を得ているようで、トップ女優ともなれば億の年収を稼ぎ出しています。

米フロリダ州出身のAV女優、ライリー・リードさんは、カリフォルニア州ロサンゼルス市郊外に480万㌦(1㌦130として約6億2000万円)の一軒家をキャッシュで一括購入して話題となりました。プール付きで4400坪の大邸宅です。

推定月収が57万㌦(約7400万円)Instagramの100万人以上のフォロワーがいるトップ女優です。日本でも人気があって、背中に漢字のタトゥーが入っているのが印象的に残る女優さんです。

2021年、一番稼いだAV女優は、米カリフォルニア州パームスプリングス出身のミア・マルコヴァさん(29)です。136万㌦(約1億7600万円)。

高校時代はマクドナルドでアルバイトをしていたが、モデルの仕事をするようになり、10代後半からAVに出演するように。2016年10月には男性向け雑誌の「ペントハウス・ペット」にも選ばれています。Instagramのフォロワー数は1060万人。オレゴン州に3億円の自宅と高級車BMWi8を購入しています。

Mia Malkova

トップ女優もそうですが、「普通の女の子」タイプが人気を集めています。以前のポルノ業界では「巨乳で痩身」タイプのボディを持つ女優が一般的で、1990年代の「人気ポルノ女優トップ10」すべてこのタイプでした。手だ届かない女性が、映像を通して想像する世界から、あまりにも一般的に普及して、ファンタジーからリアリティーに。

ポルノ映画の古典ですが、1972年『ディープ・スロート』(Deep Throat)という映画あります。無茶苦茶な内容ですが、大ヒットします。喉の奥に陰核(クリトリス)があるという設定です。ようは性器がのどにありそこで性的刺激を受ける女性。ディープ・スロート(口での性交)をテーマにした作品です。

脚本・監督:ジェラルド・ダミアーノ、主演:リンダ・ラヴレース。アメリカ公開後に世界中の映画館で上映され、1970年代のポップカルチャーに影響を与えたました。タランティーノのお勧めのカルトポルノムービー。

この作品もセックスシーンが多く、日本ではモザイク処理しているため、かなり見にくいものです。基本的にコミカルでポップなアート系70s作品として見れるかも。

撮影場所には、ニュージャージーの某アパートの一室を使い、3日間で完成させた。制作費は2万2千から2万5千㌦(当時のレートで約550万円)で、ルイス・”ブッチ”・ペライノによって製作されたが、資金のほとんどは父親から。マフィアのコロンボ一家の一員とされ、利益の大半はマフィアにわたり、FBIが捜査することになる。

トータルの興行収入は約6億㌦と言われていたが、当時の円換算で2000億円近く信頼性が怪しい。FBIがこの映画の利益を調査し、およそ1億㌦(当時300円強なので300億円強)の収入があったと推定している。

男性役のハリー・リームスは、製作スタッフとして200㌦で雇われたのだが、100㌦の上乗せで映画にも出演することに。

主演のリンダ・ラヴレースは本作の大ヒットで、一躍ポルノ界の大物女優にのしあがったが、本作の出演料は1200㌦だったという。のちに出版した自伝では、夫のチャック・トレイナーが彼女を無理やり出演させ、さらに出演料を横取りしたとして非難している。

彼女はその後、ポルノ映画を批判するようになる。

この作品でスターとなり、様々なメディアに出演する。ポルノ映画調査委員会の前で証言し、大学キャンパスなど講演活動がメインとなり、常に、ポルノ映画産業の慣習を暴力的なものとして非難し続けた。2002年4月3日に、車を運転中に事故を起こし重傷を負う。4月22日に生命維持装置を外され、コロラド州デンバーで死去した。享年53歳。

 

 

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