ゴッホの最も醜い傑作「夜のカフェ」赤と緑

芸術

「ひまわり」「包帯をしてパイプをくわえた自画像」といった絵画で知られるフィンセント・ファン・ゴッホは、オランダのポスト印象派を代表する画家として知られています。そんなゴッホは生前、自身の「夜のカフェ」を「最も醜い絵画だ」と評していました。

いったいなぜゴッホは夜のカフェを醜いと評したのか、夜のカフェにはどのような技法が使われているのかについて解説したムービーが、YouTubeで公開されています。

ゴッホも夜のカフェの醜さについて、「自分自身を崩壊させ、狂わせ、犯罪に走らせる」などと弟への手紙に書いているとのこと。実は、ゴッホは意図的に夜のカフェにおける醜さを演出していたそうです。

この時ゴッホが指していたのが、「夜のカフェ」という1888年9月に描かれた絵画です。夜のカフェには、一見しただけでどこか陰気で不調和な雰囲気が感じられるところがあります。

弟に宛てた手紙の中で、ゴッホは「私は赤と緑を使って、人間の恐ろしい情念を表現しようと試みてきた。緑と赤の違いは至る所に対立とアンチテーゼがある」と記しています。

どうしても陰気な空気が漂っているように思えてしまいます。
室内に閉じた夜のカフェは内装も悪く人々も沈んだように見えます。

これと同様にカフェを題材にしたゴッホの絵画として有名なのが「夜のカフェテラス」ですが、こちらはヨーロッパのロマンチックなイメージが漂ってくるようです。青っぽい夜空にはキラキラと星が瞬いており、テラスにあふれるオレンジや黄色のガス灯も美しく…… 敷石は紫やピンクを帯びて幻想的な雰囲気。

ゴッホは絵画の中で色をうまく使って人々の感情を引き出すことが巧みです。深夜のカフェを描いた夜のカフェでは、あえて人々を不安にさせるような色遣いを行っているそうです。

ゴッホは色彩理論について強い探究心を持っており、フランスの芸術家であるチャールズ・ブランクの記した色の分析法や、ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルールの色彩理論などについて勉強していました。

その中でゴッホは、2つ以上の並置された色を同時に見た時、お互いの色が影響しあって1色だけを見た時と違う効果を発揮する「同時対比」というコンセプトを学んだとのこと。また、絵具は混ぜれば混ぜるほど暗くなってしまうという性質があるため、外界の光を再現しようとしてさまざまな色を混ぜると絵が暗くなってしまいます。

これを避ける方法として、キャンパス上で混ぜたい色を並置することで網膜上に混合された色彩を作り出す、「視覚混合」という手法についてもゴッホは知っていました。

ゴッホは色彩がもたらす効果について非常に研究熱心であり、夜のカフェにおいて色彩の力を最大限に利用したとのこと。夜のカフェ内で用いられた赤と緑は補色であり、お互いの色を引き立て合う相乗効果をもたらします。

緑と赤は不快な印象をもたらすと、アメリカの自然科学者であるオグデン・ルードが述べています。ゴッホは夜のカフェを描く3カ月ほど前、「ズアーブ兵」という絵画を描いていました。

この絵画でも夜のカフェと同様に赤と緑が使われており、ゴッホは赤と緑の組み合わせについて実験していたとのこと。弟に宛てた手紙の中で、ゴッホは赤と緑が異質な組み合わせであり、取り扱いが容易ではないと記しています。

一方でゴッホは夜のカフェを描いた数カ月後の1889年1月に描いた「自画像(包帯をしてパイプをくわえた自画像)」においても、赤と緑の組み合わせを用いました。しかし、この自画像の中で赤と緑は意外にも安定し、穏やかに見えます。

その理由は、目のラインを境にした画面の上部でオレンジと青の補色を、下部で赤と緑の補色という風に色を組み合わせているからだそうです。

ズアーブ兵においては赤と緑の組み合わせによって意図せず不安定になってしまいましたが、自画像では赤と緑の組み合わせを意図的に安定させて描くといった風に、ゴッホが色彩への理解を深めていることがわかります。

夜のカフェを描き上げた翌月の10月下旬、ゴッホはポール・ゴーギャンとの共同生活を始めますが……ゴーギャンはゴッホの元を離れ、12月末にゴッホは自らの左耳を切り落とします。 ゴッホは非常に感受性の高い人物であり、その感覚は周囲の世界を受容する感性や、絵画を描く姿勢にも反映されています。

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