「そこそこの味でいい、そうれば頻繁に来客してくれる」とテレビで発言をしていたこと覚えている。
そんな事言う経営者は珍しかったので、「そういう考えもあるんだ」と感心していましたが、短期間で消滅してしまう。2回ほど行ったことがあります。
神奈川県の大和市付近にある店でしたが、1000円のハンバーグを頼むとサラダ、フルーツ、カレー、スィーツなどセルフで食べ放題。フルーツとカレーが珍しかった。ライスも食べ放題でした。
たしかにコスパよくお腹は満たされるけど、不味くもなく美味しくもない、なんの特徴もありません。冷凍食品と同じです。ゆっくりもできないので、常連客になる店ではありませんでした。
代表を務めていた井戸実は、テレビのバラエティー番組に引っ張りだこでした。「ロードサイドのハイエナ」と呼ばれ、いかにも高卒叩き上げという感じでした。
2006年に1号店をオープンしてから、絶頂期の2012年には、230店舗、225億円の売上高に達しました。
閉店店舗の「居抜き物件」をそのまま利用することから「ロードサイドのハイエナ」と呼ばれていたわけですが、このときロードサイド店の閉店が大量発生していました。
2006年8月25日、福岡県で中道大橋飲酒運転事故が発生します。
飲酒運転をしていた福岡市職員の男(22歳)が、乗用車に突っ込み、橋の上だったため海に転落、3歳児が死亡しました。市役所職員の飲酒事故で、隠蔽工作もあったことから、大変な騒ぎになりました。
酒を提供した店も処分され、法改正により厳罰化が行われます。この影響で、車を利用するロードサイドの店舗が相当数、閉店に追い込まれます。
「ステーキけん」は、このタイミングで急速に出店していきます。店をゼロから作ると、居抜きだと1店舗しか作れない予算で10店舗出せる。内装・什器も使えるものは使用、従業員までも引き抜いていたといいいます。
新興勢力の台頭で業界が活性化すればいいのですが、かなり過激で挑発的な発信をする人だったので、既存の大手チェーンは、おもしろいわけがありません。
「ステーキけん」は、安いのだからある程度のことは目をつぶれ、という姿勢で、「行き届かない部分」が明らかにありました。
すかいらーくの専門店「ステーキガスト」は、露骨に潰すために作られた店ですが、オペレーションができているお店です。しかも、少し安い。
テーブルが汚かったり、注文を取りに来てくれなかったり、お会計を待たされたり、そんな不満がない店が、近くにできたら、お客さんは流れていきます。
2012年のピークから、2018年3月期には10分の1となる24億3000万円にまで売上が減少。あっという間の転落です。急激に増やすと急激に減ることは、外食産業には良くあるケースですが、それにしても最速です。
2019年7月に「焼肉屋さかい」を運営するジー・テイストが、「けん」事業を5000万円で取得。事業は縮小しており、考えられないほどの安値で譲渡していたことになります。
独特な経営哲学で台頭しましたが、店舗にコストを掛けず、納品されたままのダンボールをカットして、売り場を作っているディスカウント形態に近いかと。
言動から、大企業のトップを務まる器ではないことは明らかですが、井戸実は凄腕の経営者であることは間違いありません。
26歳でエムグラントフードサービスを設立し、設立3年で30歳の若さで、7業態、35店舗の飲食店を経営をしています。
川崎の工業高校を卒業。
「偏差値の低い」と自分で発言しているので、神奈川県立向の岡工業高等学校、偏差値「39」あたりかと推測されます。川崎市南部の方には、低い高校もありますが、再編され工業高校は南部と北部に1校しかない。
すし職人になるべく「築地すし好」で修業を積み、その後、牛角のレインズインターナショナルに入社しました。ここで店舗開発に従事します。
その後、居酒屋企業の経営などに参画しました。“マネーの虎”のひとりである小林敦社長のかばん持ちをしながら、業態開発のいろはを教えてもらったようです。
成功を収め、メディアからも人気者でしたが、時代の流れが変わります。
エムグラント社は、直営、業務委託、FCの3つの形態で展開していました。
直営は、店長を雇用して運営する店舗。業務委託は店長が店舗オーナー。FCはフランチャイズ。運営会社に仕組みを提供して、対価をもらいます。
直営店の店長は、直接雇用です。サラリーマンと同じで人件費・社会保障が発生します。経営感覚が薄く、コスト削減意識がないという理由をつけて、業務委託契約の店長化を推し進めようとしました。
社会保険の適用範囲拡大が議論されていましたので、対象から除外されることを狙ったと思われます。業務委託による店長制度は、長時間労働の温床として、問題視されていた時期でした。
2012年2月居酒屋「和民」で働いていた女性社員が自殺、月100時間を超える過労が原因だったとして、労災認定されました。
「ブラック企業」というワードも使われ始め、長時間労働が社会問題化している時期に、井戸実、率いるエムグラントフードサービスは絶頂期を迎えています。
絶頂期の傲慢さが隠せないのか、ワタミの業務委託契約の店長が過労死した事件について「自己管理の悪さが原因」として店長を批判しています。さらに週40時間で時間労働外扱いとなることを否定。
労働のあり方の多様性が、現状と合致していないと批判し、「長時間労働が嫌なら働かなければいい」と時代に逆行する発言を繰り返します。
従業員なんて死んでもいい「ろくでもない中小企業の経営者的な発想を」心に留めておけばいいのに、自ら発信してしまう当たりが、どうしよもないところです。
従業員が不幸な自体になる前に、倒産して良かったと、つくづく思ってしまいます。ちなみに2012年頃のTwitterで“ 俺の年収2億円”と言ってます。
すかいらーくの「ステーキガスト」(2010年)、ロイヤルホストの「カウボーイ家族」(2012年)、ペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」(2013年)など
大手レストランチェーンのステーキハウス業態拡大による競争激化が倒産の原因だろうと思います。
が、それだけではないでしょう。利用したときに、多くの人が「もう一度訪れたい店」ではありませんでした。SNSにアップさせる店でもありません。
労働時間を考えないブラック企業なんて、働く人を不幸にするだけです。潰れて当然です。
譲渡されたジー・テイストは、5店舗営業しています。5店舗だけ?謎です。利益が出ている繁盛店なのかな?蒲田店はこんな感じです。
学歴も人脈も何もない叩き上げの若者が、人の何倍も働き、努力を重ねて「時代の風雲児」として君臨、束の間の夢をみていたのか、絶滅寸前です。
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