安愚楽(あぐら)牧場 負債総額は4330億円 被害7万人以上。2011年
和牛オーナー制度が行き詰まり、破綻した畜産会社、安愚楽牧場(栃木県)
安愚楽牧場の和牛預託商法はバブル期辺りにおいては利益追求の意味合いは薄く、寧ろ社会的投資の意味合いの強い事業であった。ところがバブル崩壊による金利低下、株価下落の影響から和牛が相対的に手堅い商品となり、安愚楽牧場も事業拡大に乗り出した。
「繁殖母牛に出資すれば毎年生まれる子牛の売却代金で多額のリターンが望める」という触れ込みで、出資者から金を集めるオーナー制度の最大手。栃木県、北海道、宮崎県などで38ヶ所の直営牧場を運営し、黒毛和牛をはじめとする肉牛13万3,386頭(預託農家346戸分を含む)を飼育していた。
設立から早い段階で、自転車操業になっていたと思われる。
監査法人が破綻後に2002年4月 – 2011年3月の収支(9年分)を調査した結果を発表している。「オーナーへの配当(子牛代)」1,505億円だけで本来の畜産事業売上額である「肥育牛出荷など」2,132億円の75%近くに達しており、事業収益からの配当でなかったことは明白である。
結局はオーナーへの支払額合計5,407億円は、オーナーからの契約金収入6,164億円から回されていたことになり、典型的な自転車操業という状態であったことが明らかになった。
今と違って、テレビはまだ信用があった。繰り返し流されるCM、サンデー毎日などの硬いジャーナリスト系の雑誌に広告を出し続け、多くの人が信用してしまう。詐欺を初めから働く気はないのであろうが、資金が回らず泥沼にはまる典型である。契約が満了した人も、さらに増額して出資しているケースも多く見られ、実態はなかった可能性も。
口蹄疫や震災以前からビジネスモデル破綻
少なくとも破綻の5年前から、資金繰りは自転車操業になっていたと思われる。経営陣は、破綻の理由について、伝染病「口蹄(こうてい)疫」や東京電力福島第1原発事故による経営悪化としていたが、ビジネスモデル自体がそれ以前に破綻していた。
安愚楽が雌の繁殖牛を1頭当たり300万~500万円程度でオーナーと呼ばれる出資者に売却し、数年後に買い戻す仕組み。
飼育は安愚楽が担当し、その間に生まれた子牛を売却して、年3~4%程度の配当が得られると宣伝していた。毎年3億~5億円程度の当期純利益を計上しているが「本業のもうけの割合を示す数字は0.1~0.8% 年3%以上の利益が出る事業ではなかった」との見方を示す。
自己資本比率が低く資本の大半はいずれ出資者に返還する必要がある。現金が40億円減少する一方で固定資産が65億円増加し、資金繰りが悪い-などから「出資が増えると、それ以上のお金が必要になるビジネスモデルだった可能性が高い」と指摘している。「オーナーを募集し続け、必然的に簿外債務が膨らむ構造」と分析している。
品質最悪で自社のレストランでも使えない。
安愚楽牧場の牛肉はその品質の悪さから次第に逆ブランドのレッテルを背負うに至り、市場でも標準的な畜産業者よりも数%程度安く買い叩かれる有様となった。その品質の悪さから「とても和牛預託商法で配当を続けられる会社の肉ではない」と同業者に散々に酷評されていた。
仔牛もせいぜい40万円が相場のものを50万円から60万円で購入するなど経費の無駄遣いが目立ち、結果的に「高くて質が悪い牛肉」を生産してしまうという問題を孕んだ。
外食部門も設立したが、部門で経営していたレストランがその原価の高さと質の悪さから安愚楽牧場の牛肉の使用を拒否する事態が起こった。
1990年代からゴルフ場やスキーリゾート、ホテルや美術館など本業と関係の無い事業に参入し、和牛預託商法のために集めた資金である200億円を投資しながらもそれらの失敗により会社の経営が悪化した。
牧場などの全資産を売却し、負債の弁済に充てる計画。しかし、4300億円を超える負債のうち、弁済は「1割ほど」。経営破綻した安愚楽牧場は、社会問題になった和牛預託商法企業が次々に姿を消す中で、「最後の砦」とされてきた。全国7万人もの出資者を巻き込み「史上最大・最悪の消費者被害」ともいわれる。
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