【林原】水飴屋からバイオ企業 不正経理で倒産

社会考察

30年の不正経理ウソの上塗りで資金がショート。2011年

異例の倒産劇となった。私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)が受理された岡山のバイオ企業、林原(はやしばら)。

わずか1週間後の債権者集会でADRでの再建を断念し、会社更生法適用への切り替えを表明した。会社更生法を申請した中核3社は、売上高が702億円で負債総額が1318億円。債務超過は500億円以上に上る。

1961年に急逝した父の跡を継ぎ、19歳で就任した林原健・前社長。経営方針は「利益の7割を不動産、3割を研究開発に投資する」というもの。不動産からの安定収入で、大企業にはできない10~20年の長期戦略の研究開発に経営資源を投下し、オンリーワンの製品を作り出すという異色の経営手法だ。

実際、がん治療薬「インターフェロン」や人工甘味料に用いられる「トレハロース」など、世界的な製品を世に送り出してきた。戦前からの水あめ事業の利益で買い集めた不動産は膨大で、中国銀行の10%強の株を持つ筆頭株主でもある。

経営破綻の発端は、メインバンクの中国銀行が資金繰りの厳しさを注視し、さらなる融資には経営の詳細を知りたい、と林原に説明を求めた。3~4年前から、メガバンク3行は監査の不透明性から、融資を軒並み減額。

一方、中国銀行の融資額は、4年で330億円から447億円まで膨れ上がっていた。林原は中国銀行との話し合いの中で約30年前からの不正会計を明かしている。その間の架空の売掛金は300億円で、200億円の簿外債務も発覚した。

銀行関係者によると、経営状況が急速に悪化したのは1988年から2001年。この間、赤字隠蔽のための不正会計が行われ、有利子負債も約1000億円増加。うち、研究開発費に300億円、土地購入にも同額を充当。トレハロースなどが軌道に乗った2001年以降は、黒字に転換しても、身の丈を超えた過去の過剰な投資が首を絞めた。メインの支援だけでは手に負えず、ADR申請に向かった。

紛糾した債権者集会

ADR成立には、再建計画に対し、全銀行の合意を取り付ける必要がある。しかし銀行間には温度差があり、当初から難航が予想された。当日出席した債権者によれば、中国銀行や準メインの住友信託銀行がADR申請直前に担保保全に走ったことに、みずほ銀行など他行から批判の声が上がった。

1時間の協議後に休憩をはさみ、再開直後に「銀行間の調整は困難」との理由で、林原側からADRを取り下げ、会社更生法へ移行することが伝えられた。事態の急展開に「調整はこれからのはず」「出来レースか」など、下位行から不満が噴出。

休憩時間中には、取引銀行の支店にADR取り下げの書面がファクスで届けられるなど、粛々と事態が進行していた。会社側の説明では、ADR申請が明るみに出て以降、仕入れ代金の支払いなど取引条件が一気に悪化。

商品提供もままならない状況で、調整に時間をかけられないと判断した。商取引を継続しながら、金融機関と解決策を探れるというのが、ADRのメリット。長年の粉飾決算が発覚した以上、信用が失墜してしまい再生の道はなかった。

長瀬産業がスポンサー。破綻の林原買収に700億円、老舗商社・長瀬産業の大勝負

林原は不動産投資などで負債が膨張。創業者一族による長年の粉飾決算も発覚し、会社更生法を申請した。更生計画が裁判所から認可された後、長瀬が100%子会社化する。

倒産したとはいえ、林原はがん治療薬「インターフェロン」や糖質「トレハロース」を世に送り出したバイオの有力企業。中でも食品の乾燥などを抑制するトレハロースは、製造特許を押さえて市場を独占し、利益率も高い。同社の支援には食品や製薬、商社など国内外の数多くの企業が名乗りを挙げ、買収額(=債権者への弁済原資となる支援金額)は高騰。熾烈な争奪戦の末に権利を得た長瀬が投じる金額は、出資・融資合計で700億円に上る。

長瀬は合成樹脂や化成品、電子材料を柱とする化学品商社最大手。1832年創業の老舗企業で、堅実経営に徹してきたため財務内容もいい。が、今回の買収に投じる700億円という金額は、長瀬が2010年度に稼いだ最終利益の6年分にも相当し、その資金負担は非常に重い。

それでも林原を買収する一番の目的は、新たな収益柱の育成。長瀬が扱う化学品商材は、電機や自動車業界への依存度が高く、こうした業界の景況に業績が左右されやすい。このため、景気影響を受けにくい食品用酵素や医薬といったバイオ事業の強化を急いでおり、林原買収は同事業拡大の大きなチャンス。

化学品も将来的にバイオ由来商材の需要拡大が予想され、その対応のためにも研究開発の人材を増やしておきたい。買収対象となる林原のバイオ事業の今年度業績見込みは、売上高260億円、営業利益53億円。買収後は手薄だった海外展開に力を入れ、アジアを中心にトレハロースなどの潜在需要を開拓し、10年間での投資回収を目指す。

「700億円という金額の正当性は、長瀬の事業として成長させられるかどうかで変わってくる。全社を挙げて、林原を含むバイオを将来の柱に育てたい」と長瀬洋社長。巨費を投じる買収の成否に、老舗商社の未来が懸かる。(週刊東洋経済2011年12月3日号)

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