アメリカのSF作家であるフィリップ・K・ディックは、イリノイ州シカゴで、二卵性双生児の一子として生まれたが、双子の妹は40日後に死去している。この出来事は彼の作品や人間関係、そして、人生にまで大きな影響を与え、数多くの作品に「幻影の双子」のモチーフが登場する原因となった。
1982年2月17日、インタビューの仕事を終えた後に視界の不良を訴え、翌日脳梗塞で意識不明となっているところを発見された。搬送された病院で脳死と判定されてから、家族の判断で生命維持装置を外され、3月2日に、53歳で亡くなる。5度の結婚と3人の子供がいる。
作家としての活動期間は約30年で、44編の長編に加え、ディックは、約121編の短編小説を書いた。多作であるが、作家になってからは、常に貧乏だった。認められ、広く知られるようになったのは、亡くなってから。
作品『ブレードランナー』、『トータル・リコール』、『スキャナー・ダークリー』、『マイノリティ・リポート』といった映画になってヒット。『バルジョーでいこう!』(Confessions d’un Barjo )のような一般映画も、ディック作品を原作として生まれている。2005年、タイム誌が1923年以降の英米の小説ベスト100を掲載し、そこにはディックの『ユービック』も含まれていた。2007年、ディックは、SF作家として初めて The Library of America series に収録されることになった。
高い城の男
物語が展開されるのは旧アメリカ合衆国です。世界は「第2次世界大戦で枢軸国が勝利」ドイツ・イタリア・日本が勝利し占領しています。
大日本帝国とナチスによって分割されたその国では、「もしも連合国が第2次世界大戦で勝っていたら」という「もしも」の小説が流行中します。この小説は「(異なった形で)連合国が勝利する」内容です。その小説を書いた男というのがタイトルの「高い城の男」です。物語はこの「高い城の男」を中心とする群像劇として進められていきます。
最初のシーン、アメリカ人が経営する商店に日本人がやってきます。その日本人の態度というのが、傲慢で侮辱を織り交ぜるその態度は、かつての帝国軍人をよく描写しています。ただ、作中の日本人の描写は、好意的に描かれいます。勝者として傲慢な部分もあるものの、人種政策でドイツと対立するなど、ある程度は話が通じる人間的な集団として描かれています。
逆にドイツ人は反ナチ派が軒並み粛清されており、ナチズムの狂気に満ちた集団として描かれている。イタリア人は表面的には日独と並んで戦勝国として扱われているが実態としてはドイツの衛星国であり、その劣等感からアメリカ人に同情する描写が描かれています。
「歴史改変SF」に該当する名作です。後半になるにつれてディック特有の形而上学・哲学的な思索やメタフィクションが展開される一方、ディック作品にありがちなプロットの破綻が生じていない。そうした点からアメリカやイギリスなど英語圏ではディック作品の代表作として挙げられています。
リドリー・スコットが製作総指揮したAmazon.comのテレビドラマが話題となっている。
シーズン1 2015年11月20日配信
シーズン2 2016年12月15日配信
シーズン3 2018年10月05日配信
シーズン4 2019年11月15日配信 最終シーズン。
アンドロイドは夢を見るのか
第三次世界大戦後、世界は荒れ果て、純粋な生物は減少の一途をたどっていました。生物は厳重な保護を受け、世には機械化されたものが蔓延し、本物の動物のペットを持つことはは一種のステータスとされました。
主人公のリックも本物の動物を手に入れる資金をかせぐため、「アンドロイドを処分する」という仕事を引き受けます。人間とアンドロイドをどう見分ければ良いのか、彼らの違いは何なのか、非現実的なSFの世界観で読者に問いかけてくる作品です。
オリジナルが刊行されたのは1968年ですから50年前の作品ということになります。
さすがに古くささは否めませんが、それでも今だに読みつがれるのは、テーマが普遍的なものだからです。「ヒトの自意識のあり方、機械との差異という点」から哲学的ですが、ストーリー展開の面白さで一気に読んでしまえます。読み初めがちょっと違和感があるかもしれませんが。
1982年公開のリドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演の「ブレードランナー」の原作として知られていますが、公開当時はヒットはしませんでした。大ヒット作「E.T.」の陰に隠れて興業成績は全く振るいません。日本でもロードショーでは極端な不入りで、早々に上映が打ち切られてしまいます。
日本ではロードショーでの不入りからカルト・ムービー扱いされる一方で、名画座での上映から好評を博し、本国からビデオを個人輸入するほど熱狂的なマニアも現れました。その後、ビデオが発売・レンタル化されてからは記録的なセールスとなります。
監督のリドリー・スコットは1979年公開のSFホラー「エイリアン」に次ぐSF作品、卓越した映像センスを発揮します。従来のSF映画にありがちだったクリーンな未来都市のイメージを打ち破り、環境汚染にまみれた酸性雨の降りしきる退廃的近未来都市像として描いた。
そして、この作品が提示した、猥雑でアジア的な近未来世界のイメージは、1980年代にSF界で台頭したサイバーパンクムーブメントと共鳴し、小説・映画はもとよりアニメ・マンガ・ゲームなど後の様々なメディアのSF作品にも決定的な影響を与えることとなります。
◆Don’t try to solve serious matters in the middle of the night.
真夜中に深刻な問題を解決しようとしてはいけない。
◆Drug misuse is not a disease, it is a decision, like the decision to step out in front of a moving car. You would call that not a disease but an error of judgment.
薬物の乱用は病気ではない、決断である。それは動いている車の前に踏み出すのと同様の決断である。
薬物の乱用を病気と呼ぶのではなく、判断の過ちと呼んだほうが良い。
◆Reality is that which, when you stop believing in it, doesn’t go away.
現実は、それを信じるのをやめたとき、離れていかないものである。
◆The basic tool for the manipulation of reality is the manipulation of words. If you can control the meaning of words, you can control the people who must use the words.
現実を操作するための基本的な道具は、言葉を操作することである。もし、言葉の意味を操作することができれば、言葉を使わなければ鳴らない人々をコントロールすることができるであろう。
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