楽天「不調の元凶」に改善の余地はあるか。異例の“高利回り社債”発行も
楽天グループが金策に奔走しています。2022年11月に総額700億円のドル建てディスカウント債を発行すると報じられました。利率は10.25%。ディスカウント債は額面金額よりも安く発行されます。その差額分を加味すると12%というもの。調達した資金は債務の返済や運転資金に充当します。楽天は2019年にもドル建ての債券を発行していますが、その際の利率は3.55%でした。10%超という高利回りの債券を発行しなければならないほど、楽天は窮地に追い込まれています。2022.12.30
通常よりも利率を抑える代わりに、額面金額より低い価格で発行される債券を指します。 新発債を購入して償還日まで保有した場合、額面価格と発行価格の差額が償還差益となります。 なお、利払いがないものはゼロクーポン債(割引債)と呼ばれます。サラ金?です。
プラチナバンドを手に入れて、モバイルがなんとかなると思ってるのかな。突き進むしかないんでしょう。競争激化で楽天市場自体パワーダウンしている状況です。
子会社2社の新規上場を計画中
ドル建て社債によって700億円を調達した楽天は、この債券だけで年間70億円以上の利払いが発生します。金利負担の高いドル建て債券を発行した理由は不明ですが、為替の影響があることは間違いないでしょう。アメリカの急速な利上げが一服し、円の急落も落ち着きを取り戻しました。円高が進行すれば楽天の負担も軽くなります。
しかし、アメリカの国債利回りが上昇しているとはいえ、利率が10%というのは尋常ではありません。JT(日本たばこ産業)も2022年10月にドル建て社債を発行して750億円を調達すると発表していますが、利率は6.875%です。仮に調達額が楽天と同じ700億円だったとすると、JTの金利負担は48億円。1年で22億円もの違いが生じます。
また、楽天は同じタイミングで個人向けの社債500億円を発行します。楽天カードが発行するもので、総額は500億円。さらに子会社の楽天銀行と楽天証券ホールディングスの上場も計画しています。
上場申請を終えた楽天銀行。恩恵は…
楽天銀行は2022年7月に上場申請を終えました。「ブルームバーグ」は、楽天銀行が上場すると「時価総額は3000億~4000億円規模になる」と関係者の談話として報じており、楽天グループは株式の売却で数百億円から数千億円規模の資金を調達できるものと考えられます(ブルームバーグ「楽天G、銀行子会社のIPO主幹事にゴールドマンと大和証G」)。
大赤字を出している楽天が、資金繰りに苦慮しているのは明らかです。
「過去最高の赤字」を上回る?
楽天は2022年1-9月に2580億円もの赤字を出しました。2021年12月期は過去最高となる1358億円の赤字を出しましたが、今期はそれを大幅に上回る公算が高まりました。
さらに楽天は2022年1-9月に営業キャッシュフローが4474億円のマイナスとなりました。営業キャッシュフローは、本業でのキャッシュが増えたか減ったかを見るもの。マイナスはキャッシュが不足していることを表します。
楽天が通期で営業キャッシュフローがマイナスに陥ったのは、2009年12月期以来。巨額の損失を計上することよりも、キャッシュが回らないことの方がよほど深刻です。
楽天が“キャッシュリッチ企業”は本当か?
ただし、楽天は2022年9月末時点で4兆5711億円もの現金を保有しています。これだけ豊富な現金を保有していれば、財務状況は極めて安定しているように見えます。
しかし、楽天がキャッシュリッチなのは銀行事業を抱えているため。楽天銀行への預金額はおよそ8兆円で、貸付金(住宅ローンや事業者などへの貸付)は3兆4000億円。それを考慮すると、決して現金が豊富な状態だとは言えません。
楽天は銀行事業以外の借入金が9月末時点で1兆7625億円となりました。前年と比較して4000億円以上増加しています。楽天が巨額の赤字を計上し、本業での資金が回らないほどに追い込まれているのは、モバイル事業への先行投資がかさんでいるからに他なりません。
ゼロ円プランの廃止で課金ユーザーは?
目先の事業資金が底をつきそうだったとしても、将来的に儲けが出そうであれば大きな問題にはなりません。しかし、いまだ先行き不透明な状態が続いています。不調の元凶はモバイル事業です。
楽天のモバイル事業2022年7-9月の売上高は457億円。営業損失は1117億円でした。売上高は前年同期間の45.0%増加していますが、損失額の大きさに比べて十分に伸張しているようには見えません。しかも、2022年3Qの売上高は2Qと比較して0.6%減少しています。
楽天モバイルは2022年7月にゼロ円プランを廃止しました。楽天は2022年9月に課金ユーザー数が大幅に増加したと発表しています。しかし、3Qの実績を見る限り、ゼロ円プランを廃止して課金ユーザーを増やした効果は限定的。
ゼロ円プランの廃止は楽天モバイルの切り札です。目覚ましい成果が出なかったことは、経営陣にとって痛手だったに違いありません。
プラチナバンド効果があるか?
楽天がモバイル事業の次なる成長ドライバーと期待しているのがプラチナバンド。楽天モバイルはつながりやすい周波数帯を持っておらず、展開するエリアが限られていました。ユーザーからも接続環境が悪いという声が多数上がっており、加入者の離反要因のひとつでもありました。
プラチナバンドは、ビルの中や離島にもストレスなく電波を飛ばすことができます。楽天は「2024年3月からの使用開始を目指す」と発表しました。新興企業らしい勇み足のアピールです。もともと、プラチナバンドの再割り当てには既存事業者が猛反発していました。移行期間に10年かかり、工事費用として1000億円発生するとしていました。その負担を楽天に求めていたのです。
2022年11月8日に総務省が報告書案を公表し、移行期間は5年、移行に伴う費用は既存事業社が負担するとしました。これでおおむね決着がついたため、楽天はプラチナバンド計画が順調に進んでいることを急いで発表しました。
しかし、料金プランで他社との差別化が図りづらくなった楽天モバイルが、プラチナバンドで競合と同じ電波環境を得たからといって、課金ユーザーが急増して収益が改善するかは疑問。手を付けてしまったモバイル事業の収集がつかずに、突き進むしかなくなっているようにも見えます。
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