大阪証券取引所と提携して新興企業向けのナスダック・ジャパン(NJ)市場を開いた米ナスダックが、日本撤退を正式に決めた。「証券市場の黒船」とされた同市場が、わずか2年余りであっさり「幕引き」することに、上場企業や投資家の動揺はおさまらない。市場関係者からは「責任の所在が不明確なままでは、証券市場全体への不信を招きかねない」と批判する声も上がっている。 大証の巽悟朗社長は16日の記者会見で、NJ市場の失敗について「(米ナスダックやソフトバンクなどが出資する企画会社の)ナスダック・ジャパン社の経営が行き詰まったからだ」などと述べた。NJ市場の名称を変えて、これまで通りの運営を改めて強調して、上場会社や投資家の理解を求めた。
しかし、東証やジャスダック(店頭)市場へのくら替えを検討し始めた上場企業を引き留める具体策は提示されなかった。また、ナスダック・ジャパン社が同日発表したコメントには「事業継続が困難となり、非常に残念だ」とあるものの、日本撤退の責任問題についてはふれずじまい。NJ市場の開設に深く関与したソフトバンクのコメントも「今回の決定は、米ナスダックの要請に応えたものだ」と、いずれも積極的に上場会社などに将来展望を示すことはしなかった。 巽社長は会見で、かねて主張してきたジャスダックなど新興市場との統合について「ゆっくり考えていきたい」と述べた。最近になって、一部の大手証券首脳が「証券市場の効率化のために、新興市場だけでなく東証も含めた取引所が、持ち株会社方式で統合することも検討されるべきだ」と説き始めるなど、証券界で市場再編論がくすぶっているのは事実だ。 しかし、こうした動きに対して、「NJ市場の失敗を総括せずに、責任回避を狙っているだけだ」と冷淡な市場関係者は少なくない。東証幹部は「それぞれ特徴を持った市場が競争しながら発展することが望ましい」と、安易な統合論には否定的だ。
◆撤退を正式に発表 大阪証券取引所と、米ナスダック・ストック・マーケット社傘下のナスダック・ジャパン社(東京)は16日、新興企業向け市場ナスダック・ジャパン(NJ)について結んでいた提携契約を10月15日で解消することで合意したと発表した。提携解消後も市場は名称を変えて存続する。大証の巽悟朗社長は他の新興企業向け市場との統合を検討する考えを改めて表明した。米ナスダック社が大証との提携解消を打ち出したことに伴う契約解消。NJ社は16日、臨時取締役会で営業活動停止を決議するとともに、提携契約解消を大証に申し入れた。大証もこれを受け入れた。NJ社は清算される見通しだ。米ナスダック社のケッチャム社長は「経済や市場環境の悪化によって日本での事業継続が困難になった」とのコメントを発表した。
ナスダック・ジャパン(NJ)社の大株主だったソフトバンクは16日、「誠に残念」とのコメントを出し、NJ社の営業停止は米ナスダック側の事情によるものと説明した。ソフトバンクはナスダックの撤退を前に、NJ市場と他の市場との統合を模索するなど、事態の打開に取り組んだとされる。しかし、今回の結論により、IT(情報技術)ブームに乗って華々しく打ち出した新市場の定着のもくろみははずれた格好だ。「上場企業や投資家の混乱を招かぬよう努力する」と市場機能の継続に協力していく姿勢を強調した。ソフトバンクはNJ社に約12億円を出資する持ち株比率43%の大株主で、孫正義社長自身もNJ社の取締役を務めていた。NJ社関係者らによると、孫社長自身が日本証券業協会幹部や、大手証券会社社長らと会って、日証協が開設する店頭市場との合併なども打診した、という。しかし、交渉条件などが折り合わず、交渉は実らなかった。このほか、福岡や名古屋の証券取引所にもNJ社などが統合話を持ちかけていたとされる。 2002 (08/17)
「システム投資が負担」 ナスダック撤退で孫社長〔朝日新聞〕
大阪証券取引所の新興企業向け市場、ナスダック・ジャパン(NJ)市場の企画会社ナスダック・ジャパン社(東京)の大株主だったソフトバンクの孫正義社長は19日、朝日新聞社のインタビューに応じ、同社が営業停止を決めたことに関し、投資家や上場企業などに対して「非常に申し訳ない」と陳謝した。営業停止の原因について「結果的にシステム投資などの負担が大きかった」と述べて当初の見通しの甘さを認めたうえで、「今後も大証で継続して取引される」と市場機能が残ることを強調した。
ソフトバンクは、NJ社との提携契約を解消する米ナスダックと同様に、NJ社に約12億円を出資する大株主だった。NJ社の取締役も務めた孫社長は、NJ社の失敗の原因について、過剰投資とともに、「これだけ景気が悪くならなければ、公開企業も増えていたかもしれない」と述べ、市場開設当初の見込みが甘かったことを認めた。NJ社は当初、上場会社数を01年末に850社と見込んでいたが、現時点でも約100社にとどまっている。ただ、「新しい米国的なシステムを導入するのが市場にとって良かれ、との判断で前向きに(投資を)行っていた」と、当時の投資判断の理由を説明した。
孫社長は、米ナスダック社が日本撤退を決める直前、日本証券業協会が開設するジャスダック(店頭市場)との統合などを日証協幹部らに打診していた。孫社長は「米ナスダックが『時間がかかるかもしれない統合話は待てない』ということで、(撤退の)決断を覆せなかった」と弁明した。 NJ社への投資が実を結ばなかったことについては「投資への金銭的リターンが目的だったのではない」と述べ、当初の目的だった「株式公開がしやすい、市場改革という目的は達成された」との立場を強調した。 孫社長は、ソフトバンクがNJ社への投資12億円の損失を被る影響は小さいとの見解を示したうえで、「投資を本業に集中し、海外投資は慎重に行うという方針は変わらない」と、ソフトバンクの投資戦略に変更はないことを明らかにした。2002 年 8 月 20 日
東証社長、ナスダックの撤退を猛批判~「狩猟民族のようなやり方おかしい」
ナスダック・ジャパン市場の年内消滅が決まったことについて、ライバルのマザーズを運営する東京証券取引所の土田正顕社長は「狩猟民族のようなやり方はおかしい」と述べ、日本撤退を判断したナスダック・ストック・マーケットの対応を厳しく批判した。土田社長は20日の記者会見でナスダック撤退の感想を問われ、「一連の対応は上場企業や投資家への責任を問われてもやむをえない」としたうえで、「取引所の運営は公共性が高く、狩猟民族のように、やってきては逃げるというというやり方はおかしいのではないか」と断じた。一方、マザーズや、ジャスダック(店頭市場)など新興市場の統合構想については、「(市場の)数が多いとか少ないとかいうのは意味がない」と否定した。日本進出当時、「黒船」として市場関係者に脅威だったナスダックも撤退、新興3市場では「上場企業1社あたりの時価総額も月間売買量も資金調達額もマザーズが最大」と勝ち誇る土田社長だが、そのマザーズも、ITバブルに乗ってあやしげな企業を上場させて投資家の信頼を損ねた前科があるうえ、新規上場企業の伸び悩みなど課題も多い。市場からは、「新興市場が成功しなかったのは東証の責任も大きい」との声も聞こえる。2002 年 8 月 21 日
ナスダックが日本撤退へ 大証との提携解消
米店頭株式市場の運営会社、ナスダック・ストック・マーケットが、大阪証券取引所と提携を解消、日本から撤退する方針を固め、来週にも関係者が来日、大証幹部と最終協議することが13日明らかになった。 2000年6月に取引を始めた新興企業向け市場ナスダック・ジャパンは、市場そのものは存続するが「ナスダック」の名称は消えることになる。同時に同市場の企画会社ナスダック・ジャパン社(東京、NJ)は清算する見通しだ。 大証は提携解消後に同市場の名称を変更して運営する方針だが、「ナスダック」のブランドにひかれて上場した企業も多いだけに、今後の運営は厳しくなりそうだ。 NJ社は業績不振から約53億円の累積損失を抱え、経営難に陥り、米ナスダックは今月7日、同社への出資金や貸付金など約2010万ドルを損失として処理した。2002/08/13
このナスダックジャパンは、ベンチャー企業が上場するまでの期間が通常二年以上かかることを見て【もっと早く上場できるようにしようじゃないか】と乗り出します。この日本版の開設の話を進め始めたのは1999年でソフトバンクの孫正義氏は積極的に開設に関与していました。ですが、開設当時の資本はあっという間に失われていってしまいます。幹部の年棒は大きいのに、その分のお役目である【上場する企業を増やす】ことは中々できませんでした。二年の経営の中、上場できた企業はたった98社しかありません。これは、当初の目標値を大きく下回る数字でした。
さらにナスダックジャパンは、内部のわだかまりなどを抱えながら業績悪化の一途をたどり、ナスダックから【これ以上は経営させませんよ】というお達しが出されてしまいました。これらが、ナスダックジャパンの撤退の事情です。日本の企業とは異なり、引き際が早く、事業は早々にヘラクレスに引き継がれましたが、もしこれ以降も経営を続けていたら、ナスダックはさらなる損失を招いていた。
ナスダック(2003年3月11日)1971年に全米証券業協会(NASD)が創設した世界初の電子証券取引市場。マイクロソフト、インテルなどに代表されるハイテク株中心の上場企業が多く、90年代後半の情報技術(IT)ブームで急成長した。しかしその後のバブル崩壊で、市場活性化の原動力となる新規上場企業数は激減。現在の上場企業数はピーク時より約千社少ない4千社程度にとどまっている。2000年にはソフトバンクと組んで大阪証券取引所と提携、日本進出を果たしたが、提携解消を発表した。(ニューヨーク共同)
ナスダックはなぜ日本を撤退したか?
1.ナスダック・ジャパン構想1999年春~2000年春にかけて具体化。日経平均1万5000~2万円台へ急伸、ナスダック指数も5000台
ITバブル全盛期大阪証券取引所との業務提携
ソフトバンク 50%NASD(全米証券業協会) 50%ナスダック・ジャパン(株)大証 提携 民間系株式市場ナスダック・ジャパン
注)ナスダック・ジャパン(株)(以下NJ社)は2000年10月に国内外の15の株式会社に、2001年12月にソフトバンク、NASDに対し第三者割当増資を行ったため、最終的にはソフトバンク、NASDともにナスダック・ジャパン株を約43%ずつ保有。
ナスダック・ジャパン(株)・・・上場支援、上場誘致、マーケティング、技術サービスなどを担当
大証・・・上場審査、証券管理、市場管理など市場運営を担当
ナスダック・ジャパン創設の狙い
成長力を持ったベンチャー企業に、株式公開による資金調達の場を提供
「日本経済が長期低迷に陥った一因は、産業構造転換の遅れにある。それを打開するためには、新産業を担う新興企業を育成しなければならない。そのためには新興企業向け新市場が必要だ」これまで、日本でベンチャー向けの株式市場というと、店頭市場だけであった。しかも、創業から店頭市場に公開するまでの平均年数は、二十数年ともいわれている。一方アメリカのナスダックでは、創業から5、6年程度の若い企業が次々公開してベンチャー投資を活発化させ、経済に好影響を与えてきた。
そこで日本でも高い成長性を持った企業により早い成長段階での株式公開を可能にさせよう。
ナスダック・ジャパン設立 ナスダック・ジャパン・クラブ
将来株式公開を目指すベンチャー企業をバックアップしようという会員組織で、ナスダック・ジャパンに関心を持つ上場・非上場企業、株式公開を支援する側のベンチャー・キャピタルや会計士、弁護士などが参加
米ナスダックの思惑(ナスダック・ブランドの構築)
次々と海外市場と提携関係を結ぶナスダックだが、その最大の目的は、自らの市場の登録銘柄を増やし取引高を増加させることにある。
世界中の投資家に目を向けさせ、魅力的な企業を数多くナスダック市場に登録させることで、ナスダックを世界ブランドにする
1998年6月、ドイツ証券取引所(株)との間で共同事業に関する合意
1998年12月、香港証券取引所との提携を発表
1999年6月、ナスダック・ジャパン構想発表
1999年7月、オーストラリア証券取引所との提携を発表
1999年11月、ナスダック・ヨーロッパ構想発表
2000年11月、ナスダック・カナダ設立
しかし、現実には、そうせざるを得ない事情がある。
《ECNの台頭》PTS(ProprietaryTradingSystem、私設取引システム)
証券取引所や証券業協会以外のものが、商業ベースで運営する私設取引システムのひとつが、ECN(ElectricCommunicationNetwork、電子証券取引ネットワーク)証券会社や機関投資家が参加する電子証券取引所のこと。その取引量は年々拡大しており、既存市場と競合する存在になっている。人気の高い銘柄は、投資家の注文だけで十分流動性が確保できるため、マーケットメーカーにコストを払わずに済む、オークション方式で取引するほうが効率的。
ナスダックや既存取引所に注文を出さなくても用が足りる。
ただし、ECNの台頭により既存取引所の存亡が危ぶまれるかといえば、そうともいえない。たとえば、流動性に乏しい銘柄の売買などは、完全なオークション方式で取引が行われるECNでは成立しにくくなる。また、株式市場には発行市場(新たに発行される株式が株主に売却されるまでの過程)と流通市場(すでに株主の手に渡った株式が売買される場所)という2つの機能があり、ECNは後者の流通市場という機能しか持っていないなどの理由からである。しかし、既存株式市場がなくなりはしないであろうといっても、その業績は縮小されていく可能性は高い。こうしたことを受けて、既存市場は更にブランド性を高めようという動きに出ている。
ナスダック・システムの導入
ナスダック・システムとは(National Association of Securities Dealers Automated Quotation Systems、全米証券業協会自動相場報道システム)
これまで証券取引というと、「取引所」という「場所」があり、そこに「場立ち」と呼ばれる人たちがいて、投資家の買い注文と売り注文を引き合わせて売買を成立させていた。また、各地で自然発生的に取引所の上場銘柄以外を扱う「店頭取引」が行われていた。ここでは証券業者と投資家、もしくは証券業者同士が価格などの条件を直接交渉する相対取引が行われていた。米ナスダックは、ナスダック・システムという、証券会社や機関投資家をコンピューターと通信回線によって結ぶコンピューター・ネットワークを利用した証券取引システムを開発、導入した。 (世界初、人も場もいない市場)
ハイブリッド方式の導入
ナスダック・ジャパンでは、マーケットメーカー方式と呼ばれる注文方法と既存市場と同じオークション方式の2つを併用する形の「ハイブリッド方式」という取引システムを導入することを計画した。(ナスダック・システムを導入することによって実施が可能)
オークション方式
売りと買いの価格が一致した場合に株価が決定。注文をうけた「場立ち」が同じ銘柄の注文を持っているほかの「場立ち」と集まって、売り買いの注文をつけ合わせる。
ナスダック・システムでは「場」がないため、ナスダック・システム自身がつけ合わせを行えるシステムの開発が進められていた。いざ株を売ろうとしてもいくらで売れるかは事前予測が困難
マーケットメーカー方式
マーケットメーカーとは、ある銘柄について値段を提示する業者。⇒具体的には証券会社
マーケットメーカーが市場の売り買いの動向を見ながら提示する、買い気配・売気配で投資家は注文できる。マーケットメーカーは、自分の提示する気配値ではなく、その時市場に提示されている最良気配値で約定を執行することがルール化されている。マーケットメーカー自身の資金で株を売買する。マーケットメーカーの資金力がナスダック市場を支える。
売値と買値にある程度のスプレッド(幅)を設け、収益を上げる。投資家にとって「コスト」
流動性の低い銘柄には「必ず売れる代わりの代償」しかし・・・流動性が高い銘柄にはオークション方式の方が効率的
2方式の利点を取り入れたシステム ハイブリッド方式
1-4.グローバル取引
ナスダック・ジャパンでは、日米欧のナスダック三市場をネットワークで結び、24時間眠らない、グローバルな取引を目指す方針を発表した。
ナスダック・ジャパン誕生以前にも国内証券会社に注文を出せば、米ナスダック銘柄は取引できた。Þドル建て、企業情報が英文、取引手数料が高い
そこでナスダック・ジャパンは・・・
・日本にいながら海外ナスダック銘柄の売買を円建てで。Þ為替手数料がかからない
・企業情報も日本語で公開。・コンピューター・ネットワーク上での取引なので従来の取引よりも手数料が抑えられる。
2.ベンチャー市場「ナスダック・ジャパン」スタート
2000年6月19日、ナスダック・ジャパンは大証内の一市場として取引を開始。
2-1.ナスダック・ジャパン上場企業
ナスダック・ジャパンには、「グローバル取引」、「24時間取引」による投資家層の拡大を期待し、2002年8月末までに98社が上場した。しかしこのうちの8割程度が、IPO(新規株式公開)時につけた株価が最高値となり、その後は低迷していた。
2-2.オークション方式の採用
ナスダック・ジャパンはスタート当初から、取引時間と同様に、原則として、既存の証券取引市場と同様の売買ルール、オークション方式を適用した。
3.ナスダック・ジャパン撤退の原因を探る
2002年8月19日、ナスダック・インターナショナルのジョン・ヒーリー会長兼CEOは都内のホテルで記者会見し、「厳しい経済環境と株式市況のため、日本法人の財務状況の見通しが立たなくなった」と述べ、大証との提携を解消しナスダック・ジャパン市場から撤退すると正式に発表した。
3-1.ハイブリッド方式、グローバル取引の未導入
ナスダック・ジャパンは、そもそもナスダック・システムを導入し、マーケットメーカー方式を併用することを宣言していた。しかしスタート当初から廃止までの売買は、オークション方式を採用していた。
金融庁からの新システム導入の内定が出ていたにも関わらず、なぜ実施に至らなかったのかというと、株主の証券会社(大証会員証券会社)が「仲介者としての利益が薄くなる」と反対し、自社の利益を優先したためである。また、日米欧の三市場を結ぶ24時間取引が実現しなかった理由について、ITバブルの崩壊、コストの重さが考えられる。本家の米ナスダック市場もITバブル崩壊でピーク時に5000ポイントを上回るほどだったナスダック指数が1000ポイント台にまで下がり、日本の株式市場も低迷。こうした状況下、米ナスダック上場企業がナスダック・ジャパンに株式を公開するメリットはほとんどない。しかも、日本で株式を公開する際、企業情報を日本語に翻訳するというナスダックの方針に従わなければならず、こうしたコスト面を考えても、米ナスダック銘柄を日本へ誘致するのは大変難しいことであった。
3-2.上場株式の伸び悩み
2000年に上場した企業の株式のうち、約8割が公開時につけた株価が最高値という状況に陥った。公募増資で調達した多額の資本を活かして新規事業を展開するといった積極性に欠けたためと見られているがそれだけではない。米ナスダックとナスダック・ジャパンの大きな違いは、マーケットメーカー方式を採用しているか否かという点である。同制度を採用していれば、どんな株式であろうとマーケットメーカーの提示する気配値で必ず売買できる、すなわち売ろうと思えば必ず売れるという保証があった。しかしナスダック・ジャパンはオークション方式を採用したため、新興株の取引は基本的に少ないということもあり、投資家は手を出しづらい面があったのである。有名企業以外、ベンチャーの情報は少ない。下落株を売ろうと思っても値が定まらない。
また、ナスダック・ジャパンの流動性が低い原因として、機関投資家があまり参加しないということが上げられる。実際、取引の7割方が個人投資家によるもので、機関投資家があまり取引していない。ここにはそもそもルールの問題がある。例えば、公的年金や適格年金などはマザーズ株やナスダック・ジャパン株を買わないことになっているのである。
3-3.NJ社累積赤字約53億円
NJ社は、24時間取引、ハイブリッド方式の導入を目指しシステム開発を行ってきたが、大証の会員証券会社がそれによって負担するコストの増加を嫌がったことで、導入に失敗。またスタート当初、上場企業数を「2005年末までに2000社」と算段したものの、期待をはるかに下回る98社と、上場企業数の見込み違いや重い開発費負担から累積赤字が膨らみ、解消の目処が立たなくなってしまった。
ナスダック・ジャパンの計画数値と実績値
暦年 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
社数計画 |
50 |
850 |
1,150 |
1,450 |
1,750 |
2,250 |
(同実績) (同乖離) |
40 ▲10 |
82 ▲768 |
104 ▲1,046 |
|
|
|
収入計画 |
404 |
2,008 |
3,720 |
5,500 |
6,899 |
8,571 |
(同実績) (同乖離) |
327 ▲77 |
471 ▲1,537 |
581 ▲3,139 |
|
|
|
固定配分金計画 |
ー |
600 |
700 |
800 |
900 |
1,000 |
(同実績) (同乖離) |
107 ー |
629 29 |
413 ▲287 |
(繰越損) |
|
|
当期損失 |
2,467 |
2,808 |
2,507 |
7,782 |
|
|
(注)単位:社、100万円。2002年の収入実績は1月~4月実績を年換算した。2002年の社数実績は2002年9月19日。固定配分金は契約上、ナスダック・ジャパン社から大阪証券取引所に支払われるもので、2003年以降が再交渉の対象とされていた。固定配分金の2002年実績は1月~7月までの受取総額。この実績には固定配分金の他に変動配分金(上場審査料や新規上場手数料、大証取り分5%とNJ社取り分95%)も含む。当期損失は一部推計で、うち2002年は半期分(1月~6月)。
3-4.大証とのもつれ
大証とNJ社では、ナスダック・ジャパン市場からの収入配分が大証側に厚かった(ナスダック・ジャパン上場企業数の見込み違いによるものだが)。大証の取り分は、設立初年の2000年はナスダック・ジャパン市場の収入の3分の1だったが、2001年からは固定化され、2001年に6億円、2002年に7億円と毎年1億円ずつ上乗せされて2005年には10億円に達する予定だった(固定配分金)。厳しい財務状況のNJ社にはこの固定配分金を支払うことが困難となり、再三大証側に金額の削減を申し入れたが、受け入れられなかった。大証側が金に執着心があったというわけではない。大証側はNJ社に対し、平均年収1500万円近いともいわれた職員の人件費削減、東京港区に構えたオフィス賃貸料の見直しなど、経営の見直しを突き付けていたのだが、その後改善された形跡がなかった。ナスダック全体に対する不信感の根付いた大証側にとって、この申し入れは受け入れがたかったのである。
4-4.上場企業の今後
今回のナスダック撤退劇での一番の被害者はというと、紛れもなく「上場企業」である。国際的ブランド、ナスダックお墨付きのベンチャー市場に株式を公開したものの、開始2年あまりで看板を外されてしまったのだからだ。大証はナスダック撤退後も市場を引き続き運営していく方針で、市場の名称も「ヘラクレス」と変更する(2002年12月の取締役会で正式に決定する見込み)。また、ナスダック・ブランドを年末まで利用できる。
しかし離脱者が相次ぐことは避けられないであろう。実際にナスダック撤退が伝えられた直後にAVソフトレンタルのゲオ、続いてベンチャー投資のITXが東証への移籍準備を公表した。いずれもナスダック・ジャパン指折りの優良企業である。また、ディスカウント・ショップとして有名なドン・キホーテは東証1部に上場しており、「グローバル取引や24時間取引などによる投資家層拡大が目的だったが、早期実現の可能性が後退し、重複上場の意義がなくなった」として離脱を決定した。このほか、ナスダック・ジャパンに上場した企業のうち、およそ半数が、東証2部や店頭(ジャスダック)1号への移籍が可能であり、このうちのほとんどは当面ヘラクレスで様子を見る意向であるという。(ヘラクレス市場も統合される)
コメント